Japan Law Express

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社会保障法

厚生労働省,厚生年金基金の解散条件の緩和の法施行を前に,先行して10月1日に事前協議制を廃止

厚生年金基金の廃止を促す方向での法改正が行われており,解散要件の緩和が来年4月から施行されますが,それに先立って,法律上の要件とは別に課されていた事前協議制について,廃止されることが明らかになりました。

事前協議制は,解散について厚生労働省に事前に許可を得ておくというものなのですが,半年くらいかかるということで,来年4月の施行時にすぐに新しい要件のもとでの解散をしようとすると,事前協議を始めるのがそろそろ必要ということになるため,廃止ということになった模様です。

株高のため,今解散しておくと,負担が少ないかなくて済むために,解散を促す好機であるということも作用している模様です。

長野県建設業厚生年金基金脱退訴訟の控訴審に,国が補助参加しないことが判明

JAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の続報です。

厚生年金基金から脱退できる場合について判示をした長野地裁判決に対しては,基金側が控訴をしたのですが,この際,厚生年金保険法の解釈が問題になるとして,国に対して補助参加を求めていました。

しかし,報道によると,厚生労働省は補助参加しないことを決めた模様です。

理由としては,民間同士の争いだからとしている模様です。

この理由だと,あまり国の今後の政策の方針と無関係に形式的に判断されたかのようですが,国は厚生年金基金の制度変更について,基金制度の廃止を打ち出してきたところですので,この政策との関係もあるところでしょう。

上記長野地裁判決の内容については以下の記事もご覧ください。

JAPAN LAW EXPRESS: 厚生年金基金からの脱退を認めた長野地裁判決の補足情報

厚生労働省,高齢者が健康保険にはいっているが労災保険に入っていない場合に請負等で受託した作業での受傷について,健康保険でカバーする法改正を検討

JAPAN LAW EXPRESS: シルバー人材センターから紹介を受けた仕事の作業中の負傷したところ保険が不適用であったとして,負傷男性の長女が国に慰謝料と協会けんぽに保険適用を求める訴訟を提起の関連情報です。

被扶養者として健康保険に入っている場合に,請負の形で労働して負傷した場合の療養費について,保険の隙間が出ていることを上記記事でお伝えしましたが,厚生労働省は健康保険法を改正して,保険の適用対象とする方向で検討を始めたことが明らかになりました。

労災保険対象外の高齢者ら健保で救済 厚労省、来年法改正へ - 中国新聞

厚生労働省は19日、仕事中にけがをしたシルバー人材センターの高齢者らが労災保険の対象にならない場合、健康保険を適用して救済する方針を固めた。健康保険も労災保険も適用されず「制度の谷間」に落ちてしまう人が治療費の全額自己負担を強いられるケースが相次いだため、対策を協議していた。

厚労省は社会保障審議会医療保険部会での議論を経て、来年の通常国会に健康保険法改正案を提出したい考えだ。

(略)

この報道で行くと,高齢者の場合だけが対象となりそうですが,それだと立法技術的に変なので,インターンシップの学生なども含めることになるのではないかと思うのですが,どうなるのでしょうか。

ちなみにこの制度の谷間になっていしまうこと自体は,それほど滅茶苦茶というわけではなく,国保に入っていればよいはずの話なのです。

健康保険の対象とすると,事故の発生率によりますが,健保財政の一層の悪化につながるために,保険料率の引き上げにつながることが考えられます。救済をしているように見えて,制度をさらに締め付けることになりかねないので,長い目で見るとどうなのかが非常に気になるところです。それよりも労災保険法の適用範囲の観点はどう考えたのかが気になるところです。

シルバー人材センターから紹介を受けた仕事の作業中の負傷したところ保険が不適用であったとして,負傷男性の長女が国に慰謝料と協会けんぽに保険適用を求める訴訟を提起

テレビでもやっていたらしいのですが,シルバー人材センターで紹介された仕事の作業中に高齢者の男性が負傷をしたところ,保険の適用がなされず治療費が全額自己負担になったということで,協会けんぽと国を相手取って訴訟を提起する事態になったことが明らかになりました。

それだけ聞くと「なぬ」と思ってしまいますが,この男性は長女の被扶養者になっており,長女の会社の健康保険である協会けんぽに入っているようなのです。

すると健康保険法の適用があるということになります(国保ではなく社保という意味)が,健康保険法は業務上災害による傷病を適用除外にしているので,このけがについて保険給付が受けられなかったわけです。

健康保険法

(目的)

第一条 この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

なぜこうなっているかというと,業務上の事由に起因する傷病については,労働者の場合,労災保険法の適用があり,すみわけをしているからです。

しかし,シルバー人材センターの仕事の場合,雇用ではなく請負であり,労働者ではないということ否定しがたいものがあります。そのため,労災保険の適用にならないのです。

すると,大変なことになりそうですが,労働者ではない場合には国民健康保険に入っているはずであり,そちらでカバーされることになるという建前があるのです。

国民健康保険は業務上災害に起因する傷病への適用を排除しておらず,ほかで給付を受けた場合にはそちらが優先するが補充的に適用があることは定めがあります。

国民健康保険法

(他の法令による医療に関する給付との調整)
第五十六条 療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、訪問看護療養費、特別療養費若しくは移送費の支給は、被保険者の当該疾病又は負傷につき、健康保険法 、船員保険法 、国家公務員共済組合法 (他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)、地方公務員等共済組合法 若しくは高齢者の医療の確保に関する法律 の規定によつて、医療に関する給付を受けることができる場合又は介護保険法 の規定によつて、それぞれの給付に相当する給付を受けることができる場合には、行わない。労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)の規定による療養補償、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)の規定による療養補償給付若しくは療養給付、国家公務員災害補償法 (昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用する場合を含む。)の規定による療養補償、地方公務員災害補償法 (昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法 に基づく条例の規定による療養補償その他政令で定める法令による医療に関する給付を受けることができるとき、又はこれらの法令以外の法令により国若しくは地方公共団体の負担において医療に関する給付が行われたときも、同様とする。
2 保険者は、前項に規定する法令による給付が医療に関する現物給付である場合において、その給付に関し一部負担金の支払若しくは実費徴収が行われ、かつ、その一部負担金若しくは実費徴収の額が、その給付がこの法律による療養の給付として行われたものとした場合におけるこの法律による一部負担金の額(第四十三条第一項の規定により第四十二条第一項の一部負担金の割合が減ぜられているときは、その減ぜられた割合による一部負担金の額)を超えるとき、又は前項に規定する法令(介護保険法 を除く。)による給付が医療費の支給である場合において、その支給額が、当該療養につきこの法律による入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費又は移送費の支給をすべきものとした場合における入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費又は移送費の額に満たないときは、それぞれその差額を当該被保険者に支給しなければならない。
3 前項の場合において、被保険者が保険医療機関等について当該療養を受けたときは、保険者は、同項の規定により被保険者に支給すべき額の限度において、当該被保険者が保険医療機関等に支払うべき当該療養に要した費用を、当該被保険者に代わつて保険医療機関等に支払うことができる。ただし、当該保険者が第四十三条第一項の規定により一部負担金の割合を減じているときは、被保険者が同条第二項に規定する保険医療機関等について当該療養を受けた場合に限る。
4 前項の規定により保険医療機関等に対して費用が支払われたときは、その限度において、被保険者に対し第二項の規定による支給が行われたものとみなす。

この件の男性の場合,雇用契約にないのに社保に入っていたために,隙間に該当してしまったというわけなのです。

そこで,全額負担となってしまったということのようなのですが,訴訟を提起して,国には慰謝料,協会けんぽには保険適用を求める請求をしている模様で,根拠として憲法に言及しており,「高齢者の就労環境が変化しているのに国会が立法を怠った。社会保障をうたった憲法に違反する」としている模様です。

15万人ほど高齢者がこのような形で働いているとのことで,立法事実としてどうなのかが問題となりそうな形成となっています。

しかし,社会保障は立法裁量の色彩が強いこと,立法不作為が違法と評価されるのは選挙権ですらかなりハードルが高いことからいくと,このような構成で行くとなかなか厳しいものが予想されます。

国民健康保険法との比較という観点から主張をすることはありかもしれませんが,高齢者ともなると,後期高齢者になるまでの間ならある意味,健康保険をどうするかは選択できる問題ですので平等の形で話をすることは難しいような気がします。

政策形成訴訟の意義はあるのかもしれませんが,実のところ,構成には考えようがあるような気がします。

余談ですが,報道によると原告はけがをした高齢者の男性ではなくその長女のようなのです。どういう法的根拠でこうなっているのでしょうか。成年後見等になっているのでしょうか。この点については情報不足でよくわからないところがあります。

長野県建設業厚生年金基金に対し,長野地裁判決以後,複数の事業所が脱退の申し入れをしていることが明らかに

JAPAN LAW EXPRESS: 長野地裁,加入事業所が財政の悪化を懸念して厚生年金基金からの脱退を請求した事件で請求を認容の関連情報です。

この長野地裁判決以後,長野県建設業厚生年金基金に対して脱退の申し入れをした事業所が複数出ていることが明らかになりました。

基金側は,代議員会に諮ることもしない構えであり,一方で先日の長野地裁判決に対して控訴して,厚生労働省の参加を得るため,国に訴訟参加してもらうための訴訟告知をする模様です。

まだ長野地裁の判断はまだ確定していない以上,基金側がさらなる脱退の動きを認めることはできないというのは当然と思われますが,代議員会にもはからない扱いがはたして可能であるかはよくわからない点があります。報道によると,不備があるとしているようなので,脱退の申し入れをすることそのものに要件の欠缺があるのかもしれませんが,雪崩を打って脱退の動きが強まって来るのに対して,脊髄反射のような反応をすると,さらなる法的紛争を生むかもしれません。

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