遡っての障害基礎年金の支給を申請したところ,支給時点以降の分以外は不支給となったところ,取消訴訟が提起され,東京地裁は不支給処分を取り消すというかなり大胆な判決がされました。

障害基礎年金:女性の請求認める判決 東京地裁- 毎日jp(毎日新聞)

障害やけがの程度に応じて支給される障害基礎年金を巡り、支給開始の20歳の時には制度を知らなかった東京都内の知的障害の女性(32)が、当時の医師の診断書がないことを理由に過去にさかのぼっての支給を認めない国の処分は誤りだとして取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は8日、女性の請求を認める判決を言い渡した。谷口豊裁判長は「20歳当時を知る関係者の証言から女性に障害があったと認められ、処分は違法」と述べた。

女性は28歳だった2009年8月に制度を知り、軽度の知的障害との診断を受け、翌月から年金を受給。20〜28歳分の支給も国側に求めたが診断書がないために退けられ、11年に提訴していた。

判決は、女性が20歳当時に通っていた洋裁専門学校の担任が、▽ミシンを1人では使えなかった▽衣服をうまく着脱できなかった−−などと証言したことを重視し、障害等級2級に該当していたと認定した。(略)

この事件には,時効の問題から障害基礎年金をどこまで遡って支給を受けられるのかという論点がまずありますが,さらにそれをクリアしたうえで,障害の認定に当たっての事実認定に関する裁量が問題となっています。

前者の問題についてはすでに別の裁判例でも取り上げたことがありますが一つの争点です。

今回はさらにその先の問題として事実認定に関して問題となっています。というのは,障害年金は,請求するに当たり,主治医から所定の診断書に状況を記載してもらう必要があり,それを添付資料として必ず提出しないと受理されません。

今回は発症当時とされる20歳ごろの時期についてはまだ受診していなかった模様で診断書がないということなのですが,それでもそのほかの事実から障害の状態と認定できるなら受給資格ありとなるかということが問題となったわけです。

東京地裁は,間接事実から受給資格ありと認定できるので不支給処分は違法と判断しました。

法律上は障害の状態が要件となっているところですが,診断書の記載をもとにして障害状態にあるかを読み解いて認定をするというのが年金実務となっており,裁判所のするような間接事実から認定してしまうということは行っていないわけです。このような認定の仕方をすると,実務上は大変な混乱をきたす恐れがあり,実務が回らなくなってしまう可能性もありそうです。

一方で障害年金は,障害者にとっては非常に重要な生計を保つための手段になりますので,すこしでも障害の実態に即して受給を受けることが望ましいのは確かです。裁判で判断されたら支給するがそれ以外では診断書一本主義のような運用にすることもありでしょうが,厚生労働省の所管する制度ではそのような対応を取らず,裁判で判断されたことを実務にも反映させるように改めていくという動きをする傾向があります。それは,正しい反応ではあるのですが,現在の年金実務は相当程度,混乱しており障害年金の場合,支給までの手続きがかなり遅れ気味になっている傾向があります。そのような中,実務とのすり合わせをどうするのかなど,深刻な問題を招来させそうな一件といえるでしょう。

裁判例情報

東京地裁平成25年11月8日判決